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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)1428号 判決 1966年12月01日

上告人(原告・控訴人) 株式会社江口商店

右訴訟代理人弁護士 森静雄

被上告人(被告・被控訴人) 林茂

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人森静雄の上告理由第一、二点について

被上告人個人としては三宅伊勢子になんらの代理権をも授与したものでなく、伊勢子は未だかって被上告人個人の代理人であったことはない旨の原判決の事実認定は、その挙示する証拠関係ならびにその認定している間接事実に照らして是認しえなくはない。原判決が所論甲四号証の記載内容と矛盾する三宅伊勢子の証言を採用している以上、両号証の記載内容を拒絶せずこれを排斥したことは明らかであるから、同号証について特に判示していなくても理由不備の違法があるとはいえない。

論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用することができない。

同第三点について

論旨は、原判決には民法一一〇条の解釈適用を誤った違法があり、昭和三四年七月二四日言渡の最高裁判所第二小法廷判決(民集一三巻八号一一七六頁)は変更されなければならない、というにある。

しかし、民法一一〇条は「代理人カ其権限外ノ行為ヲ為シタル」ことを前提としているのであって、相手方がいかに代理権ありと信じ、かつそう信じるにつき正当な理由があったとしても、全く代理権のない者のした行為についてまでも本人をして責に任ぜしめるものとは解されない。原判決の認定した事実によれば、伊勢子は日本石綿工業株式会社の代理人ではあったが、被上告人個人の代理人ではなかったというのであるから、伊勢子が被上告人個人の代理人としてした本件保証行為につき民法一一〇条を適用しなかった原判決の判断は正当であり、所論の判例を変更する必要はない。これと異なる見解を主張する論旨は採用することができない。<以下省略>

(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)

上告代理人森静雄の上告理由<省略>

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